「父を探して」を彩る音楽たち
Willie Whopper(ブラジル音楽愛好家 Barzinho Aparecidaオーナー)
 作中の楽曲を手掛けたのはサンパウロ出身のルベン・フェフェールとアルゼンチン人でサンパウロに拠点を持つグスタヴォ・クラートの2人だ。どちらも音楽学校の講師であり、普段から舞台音楽や子どもの為の音楽プロジェクトに関わっている経験を買われてこのプロジェクトに参加した。全てが彼らのオリジナルで、これらはブラジル各地の旋律、例えばアマゾンのインディオの民謡やアフリカ由来のバイーアのリズム、そしてイエズス会が持ち込んだ宗教曲などがモチーフとしている。初めて聴くはずなのにどこか人懐っこさを感じる理由はこういった移民国家ブラジルの土地からにじみ出たエッセンスが効果的に引用されているからだろう。

 彼らの楽曲を実際に演奏したのは3組のアーティストだ。まずGEMことグルーポ・エキスペリメンタル・ヂ・ムジカ。2003年サンパウロ州南部のサント・アンドレ市で結成された6人組のパーカッション・グループ。ステージに並んだ自転車のホイールや扇風機のプロペラ、ドラム缶といった創作楽器が圧巻だ。彼らの演奏はテーマ曲ともいえるリコーダーの演奏をはじめ作品中随所に使われており作品の個性を印象づけている。

 続いてボディ・パーカッション&コーラス・グループのバルバトゥーキス。1995年に結成された男女混合12人編成のユニットである。海外公演も多く、2011年にはロナウドが出演したナイキのCMソングに採用されている。ブラジルの公用語であるポルトガル語のイントネーションを活かした人間の声を用いたことにより、電子楽器では決して表現できない味わいを生み出した。

 そしてブラジルが生んだ偉大なパーカッショニスト、ナナ・ヴァスコンセロス。カポエイラで用いられるビリンバウという民族楽器を片手に、パット・メセニーやドン・チェリーといったジャズ界の大物と共演、国際的な活躍をしている。動物の鳴き声や雨や鉄道の効果音は彼の演奏によるものだ。

 エンディング・テーマを歌うのはサンパウロの若手No.1ラッパー、エミシーダ。2005年頃よりサンパウロのヒップ・ホップ界で開催されていたバトルで勝ち続け旋風を起こした。昨年発表した新曲『ボア・エスペランサ』のビデオクリップは、ブラジルにまだ残る人種差別問題をテーマに映画並みのクオリティで制作、関係者を驚かせた。
 今年のアカデミー賞ではブラジルから初のアニメ部門にエントリーを果たした本作、見事アカデミー賞獲得となるか、楽しみにしておきたい。